マゼラン艦隊最大のボトルネック
マゼラン 最初の世界一周航海――ピガフェッタ「最初の世界周航」・トランシルヴァーノ「モルッカ諸島遠征調書」 (岩波文庫)
- 作者: 長南実
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/03/17
- メディア: 文庫
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ポルトガル人マゼランの世界一周航海に同行した記録が前半にあり,面白い。もっともマゼラン自身は,よく知られているように,フィリピン・セブ島付近の小島マクタン島で原住民と戦って殺されてしまう。
世界一周航海・・とは言いつつも,実際の目的は香料諸島ことモルッカ諸島への西回りルート確立だったのだが,その一番のボトルネックは,栄養失調や壊血病,嵐や暑さ・寒さなど慣れない気候,各地の原住民の攻撃・・などではなく,艦隊の構成員同士のドロッドロの内紛だった模様。
その航海技術と統率力,豊富な経験を買われた「ポルトガル人」マゼラン一派と,スペイン人幹部たちの対立は,航海中ことあるごとに顕在化し,とうとうマゼラン海峡(と名付けられた海峡)通過中,艦隊を構成する船のうち1隻が勝手にスペインに戻ってしまう事態に至る。
冒頭に挙げたマゼランの死も,直接は原住民に殺害されたのだが・・彼が少数の兵で原住民に囲まれているときに,残りの人員とともに余所で待機していたスペイン人幹部は救援を出さなかったようで,いわば見殺しにしたともとれる状況だったらしい。
ちなみにその後はフアン・セバスティアン・エルカーノが艦隊を率いて,なんとかスペインまで戻って世界一周を果たす。出航当時5隻あった船は1隻に,270人いた乗組員は18人になっていた。
まったくもって同床異夢というか,ここまで船頭多くして・・的な状況であったとは。。当時のスペインとしては,国を挙げた一大プロジェクトであったはずなのに。。。まあ,国家プロジェクト(平たく言うと公共事業)の幹部同士で意識が食い違っていがみ合うのは,現在でもいまだによくある話なので,馬鹿にはできないけれど。
そういえば,藤子・F・不二雄のSF短編集の中に,宇宙船内の船員同士がいさかい・もめごとを起こさないように,船員として紛れこんで意図的に皆から憎まれることをやらかすプロの「にくまれ屋」の話があったのを思い出した。船員たちの「共通の敵」を演じることで,あえて皆を団結させるという役割。なかなか高収入のような描写だったが・・。
特に気が合うわけでも,団結する目的を持っているわけでもない複数の人間が,閉鎖された空間で長期間寝食をともにする。揉め事の種がもともとなかったとしても,円満にやっていくのは難しいだろうに,ましてスペインとポルトガルの対立(あるいはスペイン人幹部の「よそ者」に対する不満)があったとすると,腕利きの「にくまれ屋」が何人いても足りないだろうな・・。
そういえば,同じような大船団を率いた長期航海として,中国は鄭和の遠征が思い浮かぶが,果たしてその船団内ではどのような人間模様が繰り広げられていたのだろうか・・・。