アナール学派と「環境決定論」
フランス歴史学革命―アナール学派 1929‐89年 (NEW HISTORY)
- 作者: ピーターバーク,Peter Burke,大津真作
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1992/05/25
- メディア: 単行本
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俗に言われる「アナール学派」についての歴史を平易に解説した本。(平易とはいっても,歴史「学」の研究書に馴染みが薄い人にはたぶん難解だろうが。)
アナール学派については,明確に定義できるような集団はもはや存在しないというのが一般的見解だと理解しているが,とりあえずそれは置いておく。
ブローデルとそれ以降の世代のギャップを表す言葉として「地下室から屋根裏に」と書かれていたのが面白かった。要するに,生態環境・経済的土台など下部構造ではなく,文化的な上部構造に焦点を置いて研究する人間が再び多くなったということ。確かに,いまのフランスの研究者をざっと(あくまで,ざっと)見渡す限りでは,ブローデル的にダイナミックに自然環境と人間社会の様相(経済,政治,文化)を絡めて議論する人はあまり見当たらない気がする。(門外漢の勝手なイメージなので,違っていたら申し訳ありません。)
それどころか,そういう議論をした途端に「環境決定論」というレッテルを貼って蛇蝎の如く警戒される風潮があるように思う。これは日本の歴史学・(人文)地理学あたりでも同じかもしれない。結局,そういう議論をしたい場合には「環境可能論」という,結局どういうことなのかよくわからないお茶を濁したような言い方になるようだが・・。
そもそも物事というのは「決定的であるか,ないか」という二値的なものではない場合が大半では。ある要素が,その場その場でどの程度クリティカルであったのか(なかったのか)というのを丁寧に(可能な限り量的に)説明してくことが大事のような気がするのだが。さらに言うと,人間集団に比べたら自然環境の方がまだカオス的度合が少ないと個人的には思っているので,自然環境が人間社会に「どの程度」影響・制約を与えたのかを議論することは,いまだに有意義で,かつ実証的・科学的アプローチを相対的にはとりやすい気がするのだが。